2007年01月26日

続 儘ならぬは浮き世<4>

そのスナックには、JACK POTというゲームマシンが置いてあった。

店内ボックス席のほとんどがテーブルゲームで占めており、一角だけが、ポーカーゲーム機だった... マスターが賭○罪で検挙されてからの数日間、店の扉は閉じたまま... そんなある日、ママから電話があった。

『今日からお店を開けるンだけど、早い時間に来られる?』

お店に出入りするための大体の理由は「晩メシ」... いつも、20時前後に顔を出していた。しかし、その日は電話口の向こうで18時半頃にお店に来て!と告げられたのである。

<マスターが保釈されて、出所祝いでもするのか...?>
<いや、出られるにはまだまだ掛かるはず! じゃ、なんだ??>


壇 ふみ風の『姐さん』と、一緒に晩メシを食べるようになって数カ月が経っていた。
日常の事や仕事の話し、はたまた裏世界の話し... その筋のいろいろ恐い話しも聞いた。歌舞伎町チャイニーズが少し落ち着いていたせいか... その時にはもう、彼女にまでボディガードは張り付いていなかった。

正体不明だった謎多き女性も、今や友だち感覚で危ない冗談さえ言い合えるようになっている。ただ、老紳士の愛人に代わりはない... 出過ぎたマネをすると痛い目に遭う! いやいや「痛い目」どころか「死んだ魚の目」にはなりたくない。

なので、<出過ぎたマネ>その言葉に深い意味はまったくないのである。


数カ月間で聞いた中に、こんな話しがあった。

彼女の住むマンションに老紳士が訪ねて来た時だったそうだ。
歌舞伎町争奪戦のピーク時に、ガードの隙をついてチンピラが老紳士を目がけて突進... 彼女も巻き添えを喰らうところだったらしい。
以来、彼女にボディガードが付き、あるモノが渡され、寝る時には枕の下にそれを忍ばせて置いたという...。



商店街の明かりが人込みと交わってチラチラと揺れ始めた頃、スナックへと向かった。

店の扉を開けて様子を窺っても、やはりマスターの姿はない。常連客のH子ちゃん、ママ、ボックス席にスーツ姿の中年男性が一人... 向い側に座っている、姐さんと談話していた。わたくしは、この男性は初顔だ。

カウンターに座り、いつものように珈琲を注文しながら横目でチラリと男性を観察する。上品に着こなしたスーツは、それなりの地位を得た会社役員風である。
間違っても裏街道を生きるタイプではない。同じくカウンター端席にてH子ちゃんが横目で流しながらソワソワしてる... ママはというとニヤついて、わたくしの顔を見る!

<なにか始まるぞ...!?>

珈琲に口をつけ、紫煙が店内に漂い始めた頃、姐さんに動きが出てきた...
やんわりと、そして確実に、相手の男性に対して口調を強めていったのである。男性は上着を脱ぎ出し、ネクタイを外し、シャツのボタンを緩め始めた... この時ママは、すかさず扉の鍵を掛けに動いていた!

そして、姐さんは一段と声を荒げて発した。
『おまえは、わたしに何をして貰いたいの!?』


中年男性。
『気持ち... 良いことです... 』


姐さんも上着を脱ぎ始める。
黒い下着が露になってくる時、ヒールを差し出し...
『靴をお舐め!』


ひざまずく中年男性...

目の前で展開されている光景が俄に信じられない...
わたくしは、手にしてた珈琲を慎重に皿へと戻したのだった。
 
<つづく>

手錠でち


posted by ぽんしょん at 06:22| Comment(0) | TrackBack(0) | □ 儘ならぬは浮き世

2006年08月19日

続 儘ならぬは浮き世<3>

高層ビルの赤い表示灯が明滅している。

大都会の象徴的な夜景が、階を重ねるごとに目の前に拡がっていった。
そこは、当時の西新宿高層ビル群が一望できる絶好のロケーション地... 眼下に映り込んで来る、限り無い灯火... それぞれの営みが、それぞれの灯りに投影している。


キッカケ...?

経緯<キッカケ>は分からない...。

知らなくてもいいこと... その後も、私生活に立ち入ることもないので聞かなかった。
ただ、彼女は老舗料亭のお嬢さん... ということは話してくれた。
少し勝ち気にした「壇 ふみ」といった雰囲気だ。気品と知性を感じられたのも、これで頷ける。 それを聞けただけでもお腹いっぱいだった。

他愛無い話しで時間は過ぎていく。
こうして喋っていると、まったく普通のあどけない女性を感じる... しかし、目の前でテーブルゲームに興じる彼女は、浮き世離れした存在なのである。

途中、彼女に電話が入った。
そのあとは、一段とお酒も弾む... 今夜はもう、老紳士は戻って来ないのだろう。


常連客の一人が彼女に声を掛けた。

「今夜は仕事休み?」
「ううん、若い子に任せてきたの(微笑)」ってな感じの会話である。

単純に... <おお、水商売のことね>と思う。
が、声を掛けた男性がわたくしを見てニヤリと笑う。。 意味不明だ...!
理解不能のまま、笑い返す! ほどなくして...。

『この女<ひと>はね、女王様なんだよ!』

確かに、ここではみんなから一目置かれている彼女である。
それは... 姐さんだから? という意味!? いや、ニュアンスが違う!
うふふっ と、彼女は笑いながら気にする様子もなく... ゲームオーバーを残念がっている。

一夜にして、謎多き女性に魅入られてしまう。
こうして、夜は更けていき... 閉店間際に我々はぞろぞろと、店の外に流れて往く。

「今夜は久しぶりに愉しかった」と彼女は先に一歩を踏み出した。外で待機していたボディガードたちが一斉に動き出す。


そんな彼らに、姐さんは顎で指示して遠ざけ... 凛と歩き出して行った。

<つづく>

西新宿クリック

posted by ぽんしょん at 11:31| Comment(21) | TrackBack(0) | □ 儘ならぬは浮き世

2006年06月24日

続 儘ならぬは浮き世<2>

危険なかほりがする女性。

先日、見掛けた時と印象が違う... それは、目の前に立っている彼女から見てとれる。
店に横付けされた黒塗りのセダン、老紳士とその女性には複数のボディガードが付いていた。明らかに絶対的なポストに就いている老紳士と彼女... ボディガードの男に指示を出す老紳士の顔は、ママと話す時のような温和な表情ではなかった。

常連の客たちがそれぞれの時を過ごしながら、気軽にこの二人に挨拶の声を掛ける。少なくとも、わたくし以外の人たちは何度か顔を合わせていて馴染みになっているようだ。


サイフォンからの香しい匂いが、喫茶も兼ねている店内に漂う。

夜間だと新宿から車で10分ほどの距離にあるこのスナックは、ひとときを過ごす場所としては最適なのであろう。当時、歌舞伎町ではチャイニーズが台頭してきた時期でもあり、よくテレビニュースを騒がしていた頃でもあった。
そんな状況下でのボディガード強化配備なのだと、後に知った...。

ゆったりと話し掛け、珈琲を飲み干す老紳士。
礼儀正しく、一歩引いた言動で対応する彼女... そこはスローな空間に包まれていた。
概ね予想がつく二人の関係。一時間ほどしてボディガードが老紳士に耳打ちをした.. もう時間切れなのだろうか? 老紳士はスナックを退出して車に乗り込んでいった...。

外で見送った彼女が再び戻ってくると常連客の方に席を移動する。
彼女の顔は、あの自転車を漕いでいた時の表情になっていた。目が合ったわたくしに、一緒にどうぞ!と、手招きと笑顔で招待してくれている。


断る理由もないので...。


外で彼女のボディガードが張り付いている。
これから飲み始める、姐さんを待ちながら... 煙草に火をつけた。

<つづく>
サイフォン

posted by ぽんしょん at 20:34| Comment(2) | TrackBack(0) | □ 儘ならぬは浮き世

2006年06月11日

続 儘ならぬは浮き世<1>

お尻までとどくロングヘアをなびかせながら、その女性は街の中を颯爽と自転車で駆けて往く。

わたくしだけではない... 行き交う人々も皆一様に、異彩を放つ容姿に惹き込まれていた。歳の頃は三十代... スラリと伸びた手足、品の良い顔だちをした美人である。

長い髪の毛が車輪に巻き込まれないのだろうか?
そんな心配を他所に、彼女は人込みをすり抜けながら軽快にペダルを漕いでいる。
徐々に離れていく姿を目で追い... また会えるかな? と、ふと思う。
唐突に出くわした彼女は、ひと際目立ち... そして強烈な存在となった。


チャ○が見たかったら事務所に遊びに来い...!
わたくしをからかうように、そんな台詞を口にしたこともあった彼が... あのスナックから姿を消した頃だったろうか!? 今となってはもう記憶が定かではなくなった。
いつものように、そのスナックで晩メシを喰っていた時だった。そこへ、一人の老紳士が女性を伴ってお店に入って来た。

脚が少し不自由なのか... 老紳士は杖をついている。一歩遅れて入って来た女性はとても長身で... そこで、ハッと息を呑んだ。

紛れもなく、その女性は<彼女>だったのである!
しかし、この時点で彼女が何者なのか...? まだ、それを窺い知ることはできない... わたくしがいた。


<つづく>
匕首
posted by ぽんしょん at 04:32| Comment(0) | TrackBack(0) | □ 儘ならぬは浮き世

2006年02月23日

儘ならぬは浮き世...

むかし、喰うのも儘ならない頃、近所のスナックに出世払いでご飯を喰いによく通 っていた。 当時は渋谷に住んでおり...といっても、新宿区と中野区がすぐお隣だったので渋谷の僻地だったのだが、ま、とにかくそういう場所に住んでいて地域がら歌舞伎町をシマとする、こあ〜いお兄さん方のベットタウンにもなっていた所でもある。 そんなある日、いつものスナックで眼光の鋭い男性と知り合いになった。


よくよく話しを聞いていると、歌舞伎町を二分する組の片方の大幹部さんだと判明した。 
話題が豊富で頭の切れもすばらしく、カタギの人にはちゃんとわきまえて接してくれる紳士でその世界で流通している『紳士録』にも名を列ねる程の大物だった。一度、彼のシマに飲みに連れて行ってくれたことがあった。道中、それっぽい兄さん方が足を止め腰を90度近くも曲げて挨拶を掛けて来る... いっしょに歩いていたせいか、わたくしにも(当時は若造だよ!)ご丁寧に腰を曲げてきていた。さすがに少し引いてしまったが、それでもとても気持ちが良かった。

高級そーなお店に入りオーナーがVIP席を用意してくれる。
飲み喰いには金は掛からないから好きな物を頼めと言われ、恐縮しながらもフルーツ盛り合せなんぞを注文して、高級酒を味わう。そこでも、いろんな人間が声を掛けていく。

そんな彼をモデルにした邦画が今でもビデオレンタル屋で借りる事ができる。
タイトルは『竜二』(旧作の方です) 因みにラストで肉の特売シーンが出てくるが、スナック横の肉屋でロケーションを行った。 時は経て、スナックで彼の姿を見る事がなくなった...ママに聞いても消息は不明だと言う。
表と裏を行き交う彼に、何があったのかを知り得ることはできないが..。.


あの時、彼が囁いた言葉がとても印象に残った。

「ここで <歌舞伎町> 何かあったら、俺の名前を出せ」 と。

旧ソ連トカレフ
posted by ぽんしょん at 02:47| Comment(0) | TrackBack(0) | □ 儘ならぬは浮き世