店内ボックス席のほとんどがテーブルゲームで占めており、一角だけが、ポーカーゲーム機だった... マスターが賭○罪で検挙されてからの数日間、店の扉は閉じたまま... そんなある日、ママから電話があった。
『今日からお店を開けるンだけど、早い時間に来られる?』
お店に出入りするための大体の理由は「晩メシ」... いつも、20時前後に顔を出していた。しかし、その日は電話口の向こうで18時半頃にお店に来て!と告げられたのである。
<マスターが保釈されて、出所祝いでもするのか...?>
<いや、出られるにはまだまだ掛かるはず! じゃ、なんだ??>
壇 ふみ風の『姐さん』と、一緒に晩メシを食べるようになって数カ月が経っていた。
日常の事や仕事の話し、はたまた裏世界の話し... その筋のいろいろ恐い話しも聞いた。歌舞伎町チャイニーズが少し落ち着いていたせいか... その時にはもう、彼女にまでボディガードは張り付いていなかった。
正体不明だった謎多き女性も、今や友だち感覚で危ない冗談さえ言い合えるようになっている。ただ、老紳士の愛人に代わりはない... 出過ぎたマネをすると痛い目に遭う! いやいや「痛い目」どころか「死んだ魚の目」にはなりたくない。
なので、<出過ぎたマネ>その言葉に深い意味はまったくないのである。
数カ月間で聞いた中に、こんな話しがあった。
彼女の住むマンションに老紳士が訪ねて来た時だったそうだ。
歌舞伎町争奪戦のピーク時に、ガードの隙をついてチンピラが老紳士を目がけて突進... 彼女も巻き添えを喰らうところだったらしい。
以来、彼女にボディガードが付き、あるモノが渡され、寝る時には枕の下にそれを忍ばせて置いたという...。
商店街の明かりが人込みと交わってチラチラと揺れ始めた頃、スナックへと向かった。
店の扉を開けて様子を窺っても、やはりマスターの姿はない。常連客のH子ちゃん、ママ、ボックス席にスーツ姿の中年男性が一人... 向い側に座っている、姐さんと談話していた。わたくしは、この男性は初顔だ。
カウンターに座り、いつものように珈琲を注文しながら横目でチラリと男性を観察する。上品に着こなしたスーツは、それなりの地位を得た会社役員風である。
間違っても裏街道を生きるタイプではない。同じくカウンター端席にてH子ちゃんが横目で流しながらソワソワしてる... ママはというとニヤついて、わたくしの顔を見る!
<なにか始まるぞ...!?>
珈琲に口をつけ、紫煙が店内に漂い始めた頃、姐さんに動きが出てきた...
やんわりと、そして確実に、相手の男性に対して口調を強めていったのである。男性は上着を脱ぎ出し、ネクタイを外し、シャツのボタンを緩め始めた... この時ママは、すかさず扉の鍵を掛けに動いていた!
そして、姐さんは一段と声を荒げて発した。
『おまえは、わたしに何をして貰いたいの!?』
中年男性。
『気持ち... 良いことです... 』
姐さんも上着を脱ぎ始める。
黒い下着が露になってくる時、ヒールを差し出し...
『靴をお舐め!』
ひざまずく中年男性...
目の前で展開されている光景が俄に信じられない...
わたくしは、手にしてた珈琲を慎重に皿へと戻したのだった。
<つづく>
